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DAIGO PET CLINIC

未去勢の犬に多い精巣腫瘍|症状から手術・術後ケアまで完全ガイド

精巣腫瘍は、中高齢のオス犬に見られることのある腫瘍のひとつです。
特に、去勢をしていない場合や、停留精巣(精巣が陰嚢に降りてこない状態)をもっている場合は、発症のリスクが高まるといわれています。

この病気は、早期に見つけて治療を行うことで、健康を維持できる可能性が十分にある病気です。
そのためにも、日常の中で愛犬の変化に気づきやすい環境を整え、少しでも「いつもと違うかも」と感じたら、早めにご相談いただくことが大切です。

今回は、精巣腫瘍の種類や見られる症状、検査から治療・術後ケアまでの流れについて、当院での実際の対応を交えながら解説します。

精巣腫瘍とは?

犬の精巣腫瘍にはいくつかの種類があり、それぞれ性質や治療への対応が異なります。主なものとして、以下のような腫瘍が挙げられます。

<セルトリ細胞腫>
女性ホルモン(エストロゲン)を過剰に分泌することが多いホルモン分泌型の腫瘍です。
ホルモンの影響によって、乳腺の発達や脱毛、前立腺の腫れなどが見られることがあり、リンパ節や肺などへの転移の可能性もあります
エストロゲンの過剰により骨髄抑制が引き起こされ、血小板減少症、好中球減少症、貧血などを起こし、ときに重篤になることもあります。

 

<間細胞腫(ライディッヒ細胞腫)>
通常はホルモンを分泌しないタイプの腫瘍ですが、まれに男性ホルモン(テストステロン)を分泌することがあります。
転移することは非常にまれとされていますが、大きくなると精巣が腫れてくるなどの変化が見られることがあります。

 

<精上皮腫(セミノーマ)>
基本的にはホルモンを分泌しない腫瘍ですが、まれに女性ホルモンを分泌することがあります。
また、セルトリ細胞腫と同様にリンパ節や肺などに転移する可能性があるため、早めの診断と治療が重要です。

これらの精巣腫瘍は、去勢手術を受けていれば発生することはありません
しかし、未去勢である場合や、停留精巣がある場合にはリスクが高くなることがわかっています。
特に中高齢になると発症しやすいため、年齢に応じた健康チェックや定期的な診察が大切です。

 

精巣腫瘍の症状と早期発見のポイント

精巣腫瘍は、比較的特徴のある症状が現れやすい腫瘍です。
ただし、症状がわかりづらいケースもあるため、日常の中での小さな変化を見逃さないことが大切です。

精巣の大きさや硬さの変化
腫瘍ができた精巣は、通常よりも大きくなることが多く、触ったときに硬く感じることもあれば、柔らかい場合もあります。
ただし、停留精巣の場合は腫瘍が腹腔内にあるため、外からは触れにくく、変化に気づきにくいこともあります。

 

精巣の非対称性(左右差)
左右の精巣の大きさに違いが出てきた場合は注意が必要です。
片側だけ大きくなる、形が不自然になるなど、見た目にも変化が現れることがあります。

 

女性化の症状(ホルモン分泌型の場合)
セルトリ細胞腫のように女性ホルモンが過剰に分泌される腫瘍では、乳腺が張ってくる、左右対称に毛が抜ける(ホルモン性脱毛)といった「女性化」のサインが見られることがあります。

 

全身の症状
進行すると、元気や食欲がなくなるなど、全身の体調にも影響が及ぶ場合があります。
また、ホルモンバランスの乱れによって貧血や免疫力の低下が起こることもあります。

 

診断方法と検査

精巣腫瘍が疑われる場合は正確な診断と治療方針を立てるために、以下のようないくつかの検査を組み合わせて行います。

問診
まずは、去勢の有無や時期、過去の健康状態などについて詳しくお伺いします。
未去勢や停留精巣である場合は、発症リスクが高くなるため、診断の手がかりとなります。

 

身体検査
精巣の状態を視診・触診し、大きさや左右差、硬さの変化などを確認します。
さらに、脱毛や乳腺の腫れといった女性化症状が見られないかどうかもチェックします。

 

超音波検査(エコー)
特に停留精巣の場合、お腹の中にある精巣を確認するために超音波検査を行います。
腫瘍の位置や大きさ、周囲の臓器との関係などを調べることができます。

 

血液検査
ホルモンの異常値や、全身の健康状態を調べるために行います。
女性ホルモン(エストロゲン)や男性ホルモン(テストステロン)の数値を測定し、ホルモン分泌型の腫瘍かどうかを判断する目安にもなります。

 

画像検査(レントゲン・CT・超音波など)
腫瘍が肺やリンパ節などに転移していないかを確認するため、画像検査を行います。
必要に応じてCT検査など、より詳しい検査が追加されることもあります。

 

病理検査(組織検査)
最終的な確定診断は、切除した腫瘍の組織を病理検査に出すことで行います。
どのタイプの腫瘍かを詳しく調べることで、その後の治療や経過観察に役立ちます。

 

治療法

基本的には去勢手術(精巣摘出)によって行われます。
ただし、精巣の状態や腫瘍の進行度、全身の健康状態などによって、治療の方法や注意点が異なります。

<片側性または両側性の腫瘍がある場合>
片方の精巣に腫瘍がある場合でも、もう片方の精巣に腫瘍ができる可能性があるため、基本的には両方の精巣を摘出する方法が選ばれます。
これにより、再発やホルモンによる影響を防ぐことができます。

 

<停留精巣の場合>
精巣が体内(腹腔内)にとどまっている場合は、お腹の中に腫瘍ができている可能性があるため、開腹手術が必要になります。
近年では、条件が整えば腹腔鏡手術(カメラを使った低侵襲の手術)が行われるケースもあり、術後の負担が軽減されることがあります。

 

< 転移が確認されている場合>
肺やリンパ節などへの転移がある場合は、手術だけでなく化学療法(抗がん剤治療)を併用することも検討されます。
ただし、犬における化学療法に関する研究はまだ限られており、治療効果や副作用については事前に獣医師としっかり相談することが大切です。

抗がん剤治療についてはこちら

 

<高齢犬の場合>
高齢の場合や心臓や腎臓などに持病がある場合は、麻酔や手術にリスクが伴うことがあります。
そのため、術前に血液検査や心臓の検査などをしっかり行い、手術に耐えられる状態かどうかを見極めたうえで治療方針を決定します。

 

手術後のケアと経過観察

精巣腫瘍の摘出手術後は、一般的な去勢手術とほぼ同様の回復過程となり、特別な合併症などがなければ、術後1〜2日程度の入院でご自宅に戻っていただくことが可能です。

ただし、退院後もご家庭でのケアがとても重要になります。
以下のポイントを押さえて、愛犬が安心して回復できるようにサポートしてあげましょう。

傷口のケア
術後の傷を気にして舐めたり引っかいたりすると、感染や傷の開きの原因になることがあります。エリザベスカラーや術後服を使用して、傷口に触れないようにしましょう。

 

活動の制限
抜糸が終わるまでは、激しい運動は避けるようにしてください。
お散歩は短時間から始めて、様子を見ながら少しずつ元の運動量に戻していくと安心です。

 

術後の変化に注目
ホルモンを分泌するタイプの腫瘍(セルトリ細胞腫など)の場合、手術後に女性化症状が少しずつ改善していきます。

手術を終え、術後の経過が良好であっても、再発や転移のリスクがまったくないわけではありません。
特に、転移性の高い腫瘍だった場合には、術後の定期的な検診がとても大切になります。

画像検査(レントゲンや超音波など)を通じて内臓やリンパ節への転移の有無を定期的に確認することで、もし再発や転移があったとしても、早期に発見し、早めの対応が可能になります。

 

まとめ

犬の精巣腫瘍は、早期発見・早期治療がとても重要な病気です。
もし、精巣の腫れや左右差、脱毛などの気になる症状が見られた場合は、できるだけ早めに動物病院で診察を受けましょう。
特に、未去勢の犬や停留精巣がある場合は発症リスクが高くなるため、定期的な健康診断を受けて早期に異常を見つけることが大切です。

また、若いうちに去勢手術を行うことで、精巣腫瘍の予防につながることがわかっています。
繁殖を予定していない場合は、健康管理の一環として去勢手術を前向きに検討することも選択肢のひとつです。

 

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※記事作成当時のエビデンスに基づくもので最新のものと異なる可能性があります。