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犬や猫の肝臓腫瘍摘出手術|手術の流れとその後のケアについて

肝臓腫瘍は、愛犬や愛猫の命に関わることもある重大な病気であり、その治療として、腫瘍を摘出する手術が必要になります。
ただし、肝臓は血管が豊富な臓器であるため、手術は簡単なものではありません。それでも、腫瘍が他の臓器へ転移しておらず、きれいに取り切ることができれば、術後も生活の質(QOL)を落とさずに過ごせることが期待できます。

今回は、犬や猫の肝臓腫瘍摘出手術がどのように行われるのか、また、ご自宅でどのようなケアが必要になるのかについて解説します。

どんな腫瘍?肝臓にできる腫瘍と手術が必要になる理由

犬や猫に発生する肝臓腫瘍には、いくつかの種類があります。代表的なものは以下の通りです。

<肝細胞腺腫>
良性の腫瘍で、ゆっくりと大きくなります。肝臓全体に広がることはあまりありません。

 

<肝細胞癌>
悪性の腫瘍で、進行の速さや転移の可能性、肝臓内での広がり方には個体差があります。ただし、一般的には肝細胞腺腫と似たような性質を示すこともあります。

 

<結節性過形成>
腫瘍ではないですが、大きくなるようなら切除の検討が必要です。

犬の肝臓腫瘍についてはこちら

 

肝臓腫瘍は、特に高齢の犬や猫でよく見られ、全体の腫瘍のうち約1〜2%が肝臓腫瘍であるとされています。
また、猫では犬よりも発症頻度は少ないものの、見つかった場合は悪性であることが多いといわれています。

治療を考える際、まず検討されるのが腫瘍の摘出手術です。特に、腫瘍が肝臓の一部に限られていて、愛犬や愛猫の全身状態が安定している場合には、手術によって良好な経過が期待できることもあります。
そのためにも、腫瘍が広がってしまう前に早期に発見し、適切な治療を始めることがとても大切です。

ただし、手術による負担が大きいと判断された場合には、放射線治療や緩和ケアといった、身体への負担が少ない治療法を選択することもあります。

 

手術に向けて行う検査と準備とは?

肝臓腫瘍の摘出手術を行うには、まず愛犬や愛猫の状態をしっかりと把握し、手術が可能かどうかを判断する必要があります。そのために、事前に以下のような検査が行われます。

血液検査
特に重要なのは、肝臓の働き(肝機能)を示す数値のチェックです。これらの数値が高くなっている場合は肝臓がすでに大きなダメージを受けている可能性があり、麻酔の可否にも関わってきます。
麻酔のリスクが高いと判断された場合には、肝機能を高めるためのお薬を服用したうえで、一定期間体調を整えてから再度検査を実施することもあります。
あるいは、麻酔薬の種類や組み合わせを調整することで、安全に手術を進められるように対応することもあります。

 

画像検査
腫瘍の場所や広がり方、そして他の臓器への転移の有無を確認するために、画像検査が行われます。一般的にはレントゲンやエコー検査が行われますが、より詳細に確認するためにCT検査を実施することもあります。

腫瘍の位置や大きさによって、手術の方法や難易度が変わってくるので、念入りに確認します。

 

肝臓の腫瘍はどうやって取る?手術の方法と注意点

手術の方法は、腫瘍の大きさや広がり方によって異なります。
もし腫瘍が小さく、腫瘍が肝臓の縁にできている場合は、肝臓の一部だけを取り除く「部分切除」が行われます。
一方で、ある程度の大きさがあったり、肝臓の根本にできている場合には、その区域全体を切除する「肝葉切除」という方法が選ばれます。

犬や猫では、腫瘍が発生する肝臓の部位によって手術の難易度が異なると言われています。

左葉(外側左葉、内側左葉)
血管構造が比較的単純で、手術のアクセスも良好なため、肝葉切除の難易度は比較的低いとされます。特に外側左葉は、腫瘍の好発部位でもあり、切除後の予後も良好なケースが多く報告されています。

 

方形葉
方形葉は、左葉と右葉の間に位置し、肝門部や胆嚢に隣接するため、胆嚢摘出(胆嚢摘出術)との併用手術が必要になることもあります。また、門脈や総肝管との近接から、術中の胆汁漏や血管損傷のリスクがあるため、技術的には中等度から高難度と評価されます。

 

右葉(内側右葉、外側右葉、尾状葉)
右葉や尾状葉は肝臓の深部に位置し、後大静脈、肝静脈、門脈などの重要構造と密接しているため、術中出血や重要血管の損傷リスクが高く、最も難易度の高い部位のひとつとされています。

 

肝臓は血液が豊富な臓器ですので、術中は出血量が多くなる可能性があります。その対策として、迅速な止血の対応や必要に応じて輸血を行える体制を整えておくことがとても重要です。

また、多くの動物病院では、直接お腹を開いて腫瘍を取り除く「開腹手術」が主に行われています。
開腹手術は、手術中に視野をしっかり確保できるという利点がある一方で、大きくお腹を切開することになるため、内臓への負担や術後の回復に時間がかかるといったデメリットもあります。

 

手術後の過ごし方と入院期間の目安について

手術が終わった後は、通常4〜5日ほどの入院が必要になります。入院中は、愛犬や愛猫の痛みを和らげる処置を行いながら、手術の傷の状態や全身の様子をしっかりと観察していきます。

順調に回復し、元気や食欲が戻ってきており、合併症の兆候が見られなければそのままご家庭での生活に戻っていただくことが可能です。

ただし、術後に特に注意したい合併症のひとつが「出血」です。術後しばらく経ってから出血が起こることもあるため、退院後も注意深く様子を見てあげることが大切です。

たとえば、以下のような様子が見られた場合は、すぐに動物病院にご連絡ください。

・ふらついている
・口の中や歯ぐきの粘膜が青白く見える
・元気や食欲が急になくなった

 

自宅での術後ケアと注意点

愛犬・愛猫が術後も安心して健康に過ごしていくためには、ご家庭でのケアがとても大切になります。
まず、術後しばらくは傷口を舐めたり、引っかいたりしてしまうことがありますが、こうした行動は傷の感染や出血の原因になることがあります。
そのため、エリザベスカラーや術後服(術衣)を使用して、傷口を保護してあげることをおすすめします。

また、退院後すぐに以前と同じような活動量に戻すのではなく、最初の1週間ほどは安静に過ごさせてあげることが大切です。
様子を見ながら少しずつ運動量を増やし、愛犬・愛猫の体調に合わせて無理のないペースで普段の生活に戻していきましょう。

さらに、術後は栄養面でのサポートも欠かせません。
退院直後は、なるべく消化の良いフードを選び、内臓に負担をかけないように注意します。また、肝臓への負担を最小限にするため、肝臓の機能をサポートするようなサプリメントやフードを取り入れることで、回復をよりサポートできることがあります。これらについては、かかりつけの獣医師と相談しながら選ぶと安心です。

 

まとめ

肝臓腫瘍は早期発見がとても大切な病気です。腫瘍が大きく広がってしまう前に摘出手術を受けることができれば、その後も長く、穏やかに過ごせる可能性があります。

また、術後の愛犬・愛猫の回復をサポートするためにはご家庭でのケアがカギになります。傷口の管理や運動のコントロール、食事の見直しなど、どれも大切なサポートになります。

不安なことや迷うことがあれば、かかりつけの獣医師に相談しながら、愛犬や愛猫にとって一番安心できる環境を整えてあげましょう。

 

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