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犬の副腎摘出手術とは?|副腎腫瘍の症状から術後管理まで獣医師が詳しく説明

犬にはいくつかの種類の腫瘍が発生することがありますが、その中でも副腎腫瘍について詳しくお話しします。
副腎は、ホルモンのバランスを整える役割を担う小さな臓器で、この部位に腫瘍ができてしまうと、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などを引き起こす可能性があります。そのため、早期の発見と対処がとても重要です。

副腎腫瘍の治療には大きく分けて、内科療法(投薬)と外科療法(手術)の2つの方法がありますが、多くの場合、根本的な治療を目指すために手術が優先されることが一般的です。

今回は、副腎についての基本的な情報をお伝えし、その後で手術の流れや術後のケアについて詳しく解説します。

副腎とは?

副腎という臓器は、聞きなれない方も多いかもしれません。副腎は、腎臓のすぐ隣に位置する小さな臓器で、「皮質」と「髄質」という2つの部分に分かれています。

皮質では、ストレスや炎症を抑える働きを持つステロイドホルモン(コルチゾール)や、体内の水分や塩分のミネラルバランスを調整するアルドステロンといったホルモンが作られます。

一方で、髄質は、興奮したときやストレスを感じたときに働くアドレナリンノルアドレナリンを分泌しています。これらのホルモンが、愛犬の体内でさまざまな機能を調整し、健康を保つ重要な役割を果たしているのです。

副腎は小さな臓器ですが、体全体のバランスを整えるうえで欠かせない存在といえるでしょう。

腎臓と副腎の構造図。左側に腎臓、尿管、膀胱の位置が示されており、副腎が腎臓の上に配置されている。右側には副腎の断面図があり、『副腎皮質』と『副腎髄質』が色分けされて詳しく描かれている。

 

副腎腫瘍による症状と影響

副腎腫瘍は、「皮質」と「髄質」のどちらにも発生する可能性がありますが、犬の場合、約8割が副腎皮質の腫瘍だといわれています。
副腎皮質に腫瘍ができると、ホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されてしまい、結果として副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を引き起こすことがあります。
この病気では、以下のような症状が見られることが一般的です。

多飲多尿(水をたくさん飲んで、尿の量が増える)
多食(食欲が異常に増える)
お腹が膨らむ(腹部の膨満)
かゆみを伴わない脱毛(特に左右対称に毛が抜けることが多い)
筋力の低下(特に後ろ足に力が入らなくなることがある)

これらの中でも、脱毛はご家庭で最も気がつきやすい症状の一つです。ただし、副腎腫瘍があっても、これらの症状がすべて現れるとは限りません。

また、副腎髄質に腫瘍ができた場合は、特有の症状を示さないことが多いとされています。そのため、症状だけで診断するのは難しく、獣医師による詳しい検査が必要です。

 

副腎摘出手術について

副腎摘出手術は、副腎腫瘍の治療法として最も効果が期待できる選択肢の1つです。ただし、愛犬の持病や腫瘍の転移状況によっては、手術が難しい場合もあります。
そのようなケースでは、内科療法(お薬による治療)で症状をコントロールする方法が取られることもあります。
しかし、副腎皮質の腫瘍の場合、お薬の投与量を細かく調整する必要があり、適切な管理が非常に難しいため、基本的には手術を優先することが推奨されます。

特に、副腎皮質機能亢進症を引き起こしている場合、そのまま放置すると以下のような深刻な病気につながる可能性があります。

・高血圧
・血栓塞栓症(血管が詰まる病気)
・膵炎
・糖尿病

これらの病気は命に関わることもあるため、早めの治療が非常に重要です。

 

<手術のリスクについて>
一方で、副腎摘出手術には注意すべきリスクもあります。副腎は体の中で非常に重要な働きをしているうえに、サイズが小さく、周囲の血管や臓器との位置関係が複雑です。
そのため、手術中や手術後に合併症が発生するリスクが比較的高いとされています。

特に、腫瘍が周囲の血管を巻き込んでいる場合、リスクはさらに高まります。ある研究では、こうしたケースで手術を受けた犬のうち、約24%が入院中に命を落としてしまったという報告もあります。
これは決して軽視できない数字ですが、事前に慎重に診断を行い、適切な準備を進めることでリスクを減らすことは可能です。

また、術後に副腎グリーゼ(急性副腎不全)を発症する可能性があります。 これは、ホルモンの急激な不足により、元気がなくなる、食欲が落ちる、嘔吐する、低血圧によるショックを起こすといった症状が現れる状態です。術後はホルモン補充を適切に行い、慎重に体調を管理することが大切です。

 

手術の流れと準備

副腎摘出手術を行う際には、まず事前の検査をしっかりと行います。この検査では、愛犬の持病や現在の健康状態、腫瘍の大きさや場所などを確認します。
検査結果をもとに、手術のリスクや必要な投薬サポート、術後の治療方針を慎重に判断します。

<手術の流れ>
手術では、お腹を開けて腫瘍のある副腎を摘出します。副腎の周囲には細かな血管が多く集まっているため、これらを傷つけないように細心の注意を払いながら進めます。
また、副腎を摘出することで体全体の血圧やホルモンのバランスが急激に変化する場合があるため、手術中はもちろん、術後も徹底的なモニタリングが必要です。

 

<術後の管理>
手術後は入院していただき、術後の経過観察をしながら体調の安定や合併症の有無を確認します。副腎摘出手術は体に負担の大きい手術であるため、退院までには通常、数日から1週間程度の入院期間が必要です。

入院中は、医療スタッフが愛犬の状態を細かく観察し、体調が安定するまで必要なケアを丁寧に行います。特に、血圧やホルモンバランスの変化、手術後の傷の治癒状況などを慎重にチェックし、万が一のトラブルにも迅速に対応できる体制が整っています。

 

手術後のご家庭での管理

手術後の愛犬が快適に過ごせるよう、ご家庭での管理がとても重要です。術後は、愛犬の体調をしっかり観察しながら、無理をさせず安静に過ごさせましょう。特に、以下のような症状が見られないか注意深くチェックしてください。

術創(手術の傷口)の出血
傷口から出血が続く場合や、腫れや赤みが強くなる場合は、早めに動物病院にご相談ください。

急な体調不良
術後は体調が安定しない場合もあります。呼吸が速くなる、ぐったりするなどの様子があれば、すぐに動物病院に連絡しましょう。

嘔吐や下痢
一時的な消化不良の可能性もありますが、頻繁に起きる場合や、血が混じっている場合は注意が必要です。

元気や食欲の低下
術後数日は食欲が落ちることもありますが、元気がなくなり、水も飲まない場合は、すぐに動物病院に連絡してください。

 

<日常生活の注意点>
術後は体を休めることが何よりも大切です。散歩や遊びは控え、静かに過ごせるように配慮してあげてください。
また、獣医師から指示されたお薬を忘れずに与え、定期的な診察や経過観察のスケジュールをしっかり守ることも重要です。

 

ホルモンバランスの管理

副腎を摘出すると、ホルモンの分泌量が減少してしまうため、術後はホルモンバランスを整えるためにお薬を長期間投与する必要があります。
この管理が非常に重要で、適切に行わないと、副腎皮質機能低下症(アジソン病)という病気を発症するリスクがあります。

<副腎皮質機能低下症の症状>
副腎皮質機能低下症では、次のような症状が見られることがあります。

嘔吐や下痢(消化器の不調)
元気や食欲の低下(普段より活発さがなくなる、食べたがらない)

こうした症状が見られた場合には、放置せず、できるだけ早く動物病院を受診してください。

 

<定期的な検査と投薬の調整>
ホルモンバランスを維持するためには、症状の変化を細かくチェックし、お薬の量を適切に調整する必要があります。そのため、定期的な検査と診察が欠かせません
定期的に受診することで、愛犬の体調の変化に早めに気づき、適切な対応が可能になります。

 

まとめ

副腎腫瘍は犬に比較的多く見られる病気であり、その治療には手術が必要となることが一般的です。ただし、副腎摘出手術は体に負担がかかるため、リスクをしっかりと理解し、適切な準備を行うことが重要です。

愛犬との日々をより長く健康的に楽しむためにも、気になる症状がある場合や、不安なことがあれば、ぜひお気軽に当院までご相談ください。

 

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※記事作成当時のエビデンスに基づくもので最新のものと異なる可能性があります。

 

<参考文献>
“Clinical features, outcome and prognostic factors in dogs diagnosed with non‐cortisol‐secreting adrenal tumours without adrenalectomy: 20 cases (1994–2009)” .Veterinary Record.2013/11/23. (2025-02-01参照)
“Perioperative morbidity and mortality in dogs with invasive adrenal neoplasms treated by adrenalectomy and cavotomy”.Veterinary Surgery.2019/4/29. (2025-2-02参照)