犬や猫のお尻にしこり?|肛門腺腫瘍の原因・症状・予防法を解説
腫瘍というと、内臓や手足、お顔にできるイメージがあるかもしれませんが、犬や猫ではお尻のあたりにも腫瘍ができることがあります。
この「肛門腺腫瘍」は、種類によっては悪性度が高く、早めの対処が必要なケースもあります。もし愛犬・愛猫が頻繁にお尻を気にしたり、腫れが見られたりするようであれば、早めに動物病院を受診しましょう。
今回は犬と猫の肛門腺腫瘍について、その種類や症状、そして診断方法や治療法まで詳しく解説します。
目次
肛門腺腫瘍とは?
肛門腺腫瘍とは、肛門の周囲にある腺組織から発生する腫瘍を指します。犬や猫では、以下のような腫瘍がよく見られます。
・肛門周囲腺腫(良性)/腺癌(悪性)
肛門周囲の腺組織から発生し、良性と悪性の両方が存在します。
・肛門嚢アポクリン腺癌(悪性)
肛門嚢の腺組織に発生する悪性腫瘍で、進行が速く全身へ影響を及ぼすことがあります。
これらの腫瘍は高齢の犬に多く見られる傾向があり、猫に発生することは比較的少ないとされています。
症状
肛門腺腫瘍の初期段階では、これといった目立つ異常が見られないことも多いですが、愛犬や愛猫が頻繁にお尻を気にして壁や床にこすりつけるような動作が見られる場合があります。
また、しこりが傷ついて出血することがあり、大きくなったしこりや転移したリンパ節が腸を圧迫して、便が出にくくなることもあります。
肛門嚢アポクリン腺癌は、上皮小体ホルモン関連タンパク(PTHrp)と呼ばれる特殊なタンパク質が分泌されるため、血液中のカルシウム濃度が高まり、体にさまざまな症状を引き起こします。
具体的には、たくさん水を飲んでたくさん尿を出す「多飲多尿」や、元気や食欲の低下、体重の減少、脱力といった症状が見られることがあります。
肛門周囲腺腫/腺癌について
<原因>
肛門周囲腺腫は男性ホルモンの影響を受けやすく、特に未去勢の高齢犬でよく見られます。
一方、肛門周囲腺癌は性別や去勢・避妊の有無に関係なく発症しますが、比較的珍しい腫瘍です。
また、コッカー・スパニエルやフォックス・テリアなどの特定の犬種では、遺伝的に発症しやすい傾向があります。
<診断>
・直腸検査や視診:腫瘍の存在を確認します。
・細胞診や病理検査:腫瘍の種類や性質を特定します。
・画像検査(レントゲンや超音波):腫瘍の広がりや転移の有無を詳しく評価します。
<治療>
肛門周囲腺腫の場合、未去勢の犬では去勢手術が効果的です。この手術によって腫瘍の進行が止まり、しこりが小さくなることも多く見られます。
一方、腺癌や腫瘍が大きい場合には、去勢手術に加えて腫瘍そのものを外科的に切除する必要があります。
さらに、手術が難しい場合や補助療法として、放射線治療や化学療法が選択されることもあります。
肛門嚢アポクリン腺癌について
<原因>
肛門嚢アポクリン腺癌は、中高齢の犬に多く見られる悪性腫瘍です。去勢や避妊の有無に関係なく発症し、犬種ではコッカー・スパニエルやミニチュア・ダックスフンドが高リスクとされています。
猫での発症は非常にまれですが、シャム猫において発生例が報告されています。
<診断>
・高カルシウム血症の確認:血液検査でカルシウム濃度を測定し、異常がないかを調べます。
・直腸検査や画像検査(レントゲン・超音波):腫瘍の大きさや転移の有無を確認します。
・細胞診や病理検査:腫瘍の悪性度や具体的な診断を確定するために行います。
<治療>
肛門嚢アポクリン腺癌の治療では、まず外科的切除が基本となります。腫瘍だけでなく、転移したリンパ節も切除することが一般的です。
術後には、化学療法(抗がん剤)や放射線治療を併用し、治療効果をさらに高めることがあります。
また、血液中のカルシウム濃度が高くなる「高カルシウム血症」の治療も同時に行い、全身への悪影響を軽減します。
予防法やご家庭での注意点
肛門周囲腺腫の予防には、去勢手術が効果的です。
また、ご家庭での観察も大切です。愛犬や愛猫が頻繁にお尻を気にしている様子がないか、出血が見られないか、しこりがないかなど、日常の中で注意してみてください。
もし気になる点があれば、早めに獣医師に相談しましょう。
まとめ
肛門腺腫瘍は、中高齢の犬や猫に見られる腫瘍のひとつです。
良性の場合は去勢手術で進行を抑えられることが多いですが、悪性の腫瘍(特に肛門嚢アポクリン腺癌)は命に影響を及ぼすこともあります。
見た目だけでは良性か悪性かを判断することが難しいため、少しでも気になることがあれば、早めに動物病院で診察を受け、適切な治療を検討していきましょう。
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※記事作成当時のエビデンスに基づくもので最新のものと異なる可能性があります。
<参考文献>
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Anal Sac Gland Carcinoma in 64 Cats in the United Kingdom (1995-2007) – A. M. Shoieb, D. M. Hanshaw, 2009
Carcinoma of the apocrine glands of the anal sac in dogs: 113 cases (1985–1995) in: Journal of the American Veterinary Medical Association Volume 223 Issue 6 ()