CLINICAL DEPARTMENT

診療科別

DAIGO PET CLINIC

猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)について|不治の病に希望の光

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫の間で発生する深刻な病気の一つで、「猫コロナウイルス」の突然変異によって発症する病気です。
この病気は特に若い猫や免疫力が低下している猫に見られ、以前は治療法がないとされていましたが、最近の研究進歩により、特定の薬剤による治療で回復する可能性があることが明らかになってきました。

この記事では、FIPの基本情報、症状、診断方法、治療方法について解説していきます。

原因

猫伝染性腹膜炎(FIP)という名のこの病気は、猫コロナウイルスが原因で起こります。このウイルスが突然変異を起こし、より強毒性のFIPウイルスへと変わることでFIPを発症します。
猫コロナウイルスは、人に感染するコロナウイルスとは全く異なる種類です。
感染した猫の唾液や鼻分泌物、便を介して広がり、猫同士が密に接触することで感染リスクが高まります
なお、猫コロナウイルスは外界でも比較的長期に生存するため、感染猫がいた場合は2月程度は他の猫との同居を避けることが望ましいです

FIPはどの年齢の猫にも発症する可能性がありますが、特に1歳未満の子猫(全体の約70%)に多く見られる傾向があります。

ウイルスの変異がどうして起こるのかは、まだ完全には解明されていませんが、猫の免疫システムの異常な反応が一因とされています。

 

症状

FIPには、滲出型(ウエットタイプ)非滲出型(ドライタイプ)、そしてこれらの特徴を併せ持つ混合タイプの3種類があります。
これらのタイプによって、症状にも違いが見られますが、発熱、食欲不振、元気消失、嘔吐、下痢、体重の減少などの共通点もあります。
しかし、これらの症状は他の疾患と似ているため、この症状だけでは診断が難しく、症状だけでなく慎重な検査と観察が必要とされます。

<ウエットタイプ>
このタイプでは、腹水や胸水が溜まることが特徴です。これにより、お腹が膨らんだり、呼吸が困難になるなどの症状が見られます。ウエットタイプはドライタイプに比べて進行が早く、発症から数日から数か月で亡くなる場合があります。

<ドライタイプ>
ドライタイプでは、肝臓や腎臓などの臓器に多発性の肉芽腫が発生します。網膜やブドウ膜など目の炎症を生じたり、脳の炎症によるけいれん発作や麻痺など(FIP発症猫のおよそ10%程度)を示すこともあります。ドライタイプはウエットタイプよりも進行が緩やかで慢性的な経過をたどりますが、最終的には命を落としてしまいます

<混合タイプ>
ウエットタイプとドライタイプの特徴を併せ持ち、さまざまな症状が現れる可能性があります。

FIPの平均生存日数は発症から9日とされており、いずれのタイプも、病気が進行すると急速に健康状態が悪化します。
もし愛猫に元気がない、お腹が膨らんでいる、呼吸が苦しそう、歩き方がおかしいなどの異変があれば、早めに動物病院を受診しましょう。早期の対応が、愛猫の命を救う鍵となります。

 

診断

FIPの診断は複雑で、慎重な判断が必要になります。
完全に確定的な診断を下すことは難しい場合もありますが、複数の診断手法を組み合わせることで、より精度の高い診断が可能となります。

・問診・身体検査
・血液検査
・画像検査
・神経学的検査
・腹水貯留液の検査(リバルタ反応・総蛋白量、A/G比、細胞診、PCR検査など)
・眼科検査(ぶどう膜炎、網膜血管炎などの症状を呈することがあります)
・組織生検
・α1-AGP測定 (1500micro g/ml<)
・抗体検査 など

PCR検査では猫コロナウイルスの感染を確認しますが、感染しているウイルスが強毒性の猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)かどうか断定できないこともあるため、FIPの診断には総合的な判断が必要となります。

これらの診断方法を組み合わせた総合的な評価に基づき、最適な治療法を提案します。

 

治療

最近の進展により、猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療は大いに注目されています。
かつて有効な治療法が存在しなかったFIPですが、現在では新たな治療薬が登場し、治療の可能性が広がっています

FIPの治療で近年注目されているものには次のものが挙げられます。
・GS-441524
・レムデシビル
・モルヌピラビル など

ダイゴペットクリニックでは、GS-441524という薬を使用することで、これまでに数多くのFIPの猫ちゃんを治療してきました
薬を常備し、いつでも治療可能な体制を整えておりますので、お気軽にご相談ください

その他の薬としては、以下の薬も注目されています。
・プレドニゾロン
・デキサメタゾン
・ペントキシフィリン
・アスピリン

治療過程は長期にわたることが多く、定期的な健康チェックや症状の変化に注意深く目を配る必要があります。従来行われてきた抗炎症薬などによる治療法は一般に病気を緩和させることは可能でも、FIPを根本から治癒させるわけではありません。

 

予防法

猫のコロナウイルス感染症には有効なワクチンは存在しないため、完全に予防をすることは難しいですが、他の猫から猫コロナウイルスを移されないようにするのが効果的です。
室内飼育を徹底し、他の猫との直接接触を避けることで猫コロナウイルスの感染リスクを低く保てます。

現在猫コロナウイルスがFIPウイルスへ変異するのを確実に防ぐ方法はありませんが、FIPはストレスが原因で発症しやすくなるといわれていますので、猫の免疫力を下げないために、ストレスの少ない飼育環境を整えましょう。
下記のことに気をつけると、猫が快適に過ごせます。

・安心して休憩できるスペースの確保
・キャットタワーなど設置して運動や遊びができる環境
・トイレはこまめに掃除をして清潔さを保つ
・年齢に合わせたフードの用意
・飼い主様とのスキンシップ

そして定期的な健康診断は、早期の異常検出に役立ちます。定期健診はFIPだけでなく他の病気の早期発見にもつながります。

 

まとめ

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、特に若い猫に多く見られる重篤な病気です。不治の病として恐れられていたFIPですが、最近では特効薬の開発により治療できるようになりました。
愛猫を守るためには、室内での飼育をしっかりと行い、定期的に健康診断を受けることが大切です。早期発見と適切な治療が、愛猫の健康を守る鍵になります。

参考文献:Journal of Feline Medicine and Surgery(2009)11, 594-604 猫伝染性腹膜炎 感染症防御および管理に関するABCDガイドライン

■当院の関連記事はこちらから
犬と猫のフードの選び方について|品種や年齢、病気の有無によって選ぶのが大事!
犬・猫の健康診断について

 

■愛知県の豊田市、岡崎市、日進市、名古屋市名東区で動物病院をお探しの方はダイゴペットクリニックへお越しください!
豊田中央医療センターの病院案内ページはこちら
岡崎大和院の病院案内ページはこちら
日進オハナ院の病院案内ページはこちら
名古屋名東院の病院案内ページはこちら

※記事作成当時のエビデンスに基づくもので最新のものと異なる可能性があります。