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DAIGO PET CLINIC

犬がぐったり元気がない…ストレスで悪化⁉隠れた病気アジソン病とは

「なんとなく最近犬の元気がない」
「食欲が落ちた気がする……」
「毎日ではないけどよく吐くなぁ……」
──そんな小さな変化を感じたことはありませんか?

最初は疲れやストレスなどのせいにしてしまいがちですが、その“なんとなく”の不調の裏に重大な病気が隠れていることがあります。
そのひとつが「アジソン病(副腎皮質機能低下症)」です。

今回は、見逃されやすいアジソン病の特徴や症状、診断、治療法について、獣医師の視点からわかりやすくお話しします。

犬のアジソン病とは

アジソン病は、副腎という臓器から分泌されるホルモン(コルチゾールやアルドステロン)が不足する病気です。これらのホルモンは、体の機能を正常に保ち、特にストレスに対処するうえで欠かせません。

原因の多くは「特発性」と呼ばれるもので、はっきりとした理由がわかっていません。自己免疫の異常で副腎が攻撃される場合や、脳の働きに問題があることでホルモンの分泌がうまくいかなくなるケースがあります。

ホルモンが足りなくなるとストレスに耐えられなくなり二次的に「食欲減退」、「脱力」や「嘔吐」などの症状が見られます。

さらに、副腎皮質の機能が低下している(ホルモンが不足している)状態で強いストレスが加わると、重度の脱水や循環血液量および血圧の低下、低血糖などが起き、その結果失神や虚脱、痙攣など命にもかかわる緊急的なショック状態が引き起こされることがあります。これを「アジソンクリーゼ」と言います。

 

<アジソン病を発症しやすい犬の特徴・犬種>
発症しやすいのは中型〜大型犬で、特に若齢から中年期のメス犬に多く見られます。

また好発犬種としては以下が挙げられます。

・スタンダード・プードル
・ビーグル
・ボーダーコリー
・シェルティー
・グレート・デン など

しかしながら、どんな犬にも関係する可能性がある病気であることは心に留めておきましょう。

なお、アジソン病は犬に多い病気ですが、猫でもまれに発症することがあります。当院では猫の診療経験もございますので、安心してご相談ください。

 

<「非定型アジソン病」について>
アジソン病には、電解質(ナトリウム・カリウム)の異常が目立たない「非定型アジソン病(アチピカルアジソン)」と呼ばれるタイプがあります。

非定型アジソン病では、主にコルチゾールのみが不足しており、アルドステロンの分泌はまだ正常な状態です。
アルドステロンとは体内の「水分」と「塩分(ナトリウム)」のバランスを整えるホルモンのことです。

そのため、
・血液検査で電解質に異常が出ない
・消化器症状や疲労感など漠然とした症状のみ
という特徴があり、より診断が難しく見逃されやすい傾向があります。

しかし、進行すると典型的なアジソン病へ移行し、電解質の異常が現れる場合もあるため、定期的なフォローと治療継続が非常に重要です。

 

こんな症状に注意|「何となく元気がない」が続くとき

アジソン病が厄介なのは、はっきりした症状が出にくく、気づかれにくいことです。
初期の段階では、一時的な疲労や胃腸炎と見過ごされやすく、診断まで時間がかかることもあります。

次のような症状や変化がないかをチェックしてみましょう。

・元気がない、寝ている時間が長くなった
・食欲がない、または食後すぐに吐く
・体重が少しずつ減ってきた
・下痢や嘔吐をくり返している
・水をよく飲む、尿の回数が増えた
・散歩を嫌がる、立ち上がろうとしない

一時的に元気を取り戻すことがあっても、また同じ症状をくり返すのがアジソン病の特徴です。

「薬を飲んだら良くなったけれど、またぐったりしている」、「同じ症状が何度も続いている」……
そんなときは、アジソン病の可能性も視野に入れて、動物病院で相談してみましょう。

 

胃腸炎と間違われやすい理由

アジソン病では、嘔吐・下痢・食欲不振といった消化器の症状が目立つため、一見すると胃腸炎のように見えることがあります。実際、初期段階では獣医師であっても、症状だけでアジソン病と見分けるのは簡単ではありません。

しかし、一般的な胃腸炎の場合は数日で自然に回復することが多いのに対し、アジソン病では治療をしても不調が再び現れたり、原因のはっきりしない再発をくり返したりする傾向があります。
こうした再発のパターンに気づいたときは、アジソン病を疑って検査を行うことがとても大切です。

胃腸炎についてはこちらで解説しています

 

ストレスが悪化の引き金になることも

アジソン病の大きな特徴のひとつが、ストレスや環境の変化によって症状が悪化しやすいことです。これは、ストレスに対処するためのホルモン(コルチゾール)が体内でうまく分泌されなくなるために起こります。

たとえば次のような出来事が、体調を崩すきっかけになることがあります。

・トリミングやペットホテルの利用
・飼い主様の外出や旅行
・引っ越し、家族構成の変化
・雷や花火などの大きな音によるストレス

日々「いつ頃から様子がおかしいか」「その前にどんな出来事があったか」などを意識して観察しておくと良いでしょう。
ストレスをきっかけとした症状の現れや悪化は、アジソン病を見つける重要なヒントになります。
動物病院にいらした際もぜひ獣医師にお伝えください。考えられる原因や可能性を整理しやすくなり、診断の手がかりになります。

また、ストレスによる不調はアジソン病に限らず、他の内分泌疾患や持病の悪化のサインであることもあります。
「いつものこと」と見過ごさず、気になる変化があれば早めに相談することが大切です。

犬のストレス解消法についてはこちらで解説しています

 

どうやって診断する?|必要な検査と注意点

これまでお伝えしてきたように、アジソン病の診断は簡単ではありません。
症状が多様で他の病気と区別しにくいため、血液検査やホルモン検査を組み合わせて慎重に判断します。

動物病院で行う主な検査は次の通りです。

・一般血液検査:ナトリウムやカリウムなど電解質のバランス異常を確認します。
・画像検査(超音波・X線など):副腎の腫瘍や他の臓器の異常がないかを確認します。
ACTH刺激試験:確定診断に用いられる重要な検査です。ACTHというホルモンを注射し、その後のコルチゾールの分泌反応を調べます。

アジソン病は一度の診察や検査だけでは判断が難しいこともあります。
「胃腸炎の治療を続けているのに良くならない」「同じ症状をくり返している」場合は、アジソン病の可能性を視野に入れた検査を検討します。

 

アジソン病の治療と日常生活

アジソン病は完治が難しい病気ですが、治療を続けることで普段通りの生活を送ることも十分に可能です。実際に元気を取り戻している犬も多くいます。

治療では、不足している副腎皮質ホルモンを補うために内服薬または注射薬を継続的に使用します。
主に次の2種類の治療方法が用いられます。

 

◆ 内服薬で補う方法
代表的な薬として「フロリネフ(フルドロコルチゾン)」があります。
これは体内で不足する、副腎からのホルモンのコルチゾール、アルドステロンの両方を補う働きを持つため、毎日服用することでホルモンバランスを整えられます。
また、少量のステロイド剤(プレドニゾロンなど)を併用する場合もあります。

 

◆ 注射で電解質ホルモンを補う方法
デオキシコルチコステロンピバレート(DOCP)」という長期間作用型の薬(商品名:ジロイド・ジベニアなど)を約25〜30日に1回注射する治療法です。
この薬は主にアルドステロンの役割を補う作用があり、必要に応じて別途ステロイドの内服薬を併用します。
毎日の投薬が難しい子や通院管理したいご家庭に向いている方法です。

当院では、このようにその子の体質や飼い主様のライフスタイルに合わせて治療方法をご提案します。

 

<再発防止やアジソンクリーゼの予防のために>
アジソン病では、強いストレスや治療の中断、ホルモンの不足によって、急激に体調が悪化するアジソンクリーゼが起こることがあります
また過去にアジソンクリーゼを起こしたことがある場合は、再発リスクが高まるため注意が必要です。
これを防ぐためには、ストレスの少ない環境を整えることが大切です。

旅行や生活環境の変化があるときは、あらかじめ獣医師と相談し、必要に応じて薬の量を調整しておくと安心です。

また、日々のちょっとした変化に気づいてあげることは、体調の安定だけでなく、生活の質(QOL)を保つうえでも大切なポイントです。
不安なことがあれば、無理をせず、いつでもご相談ください。

 

まとめ|「いつもと違う」に早めに気づくことが大切

アジソン病は初期症状が軽かったり胃腸炎と間違えやすかったりと非常に見逃されやすい病気です。
しかし、早期に診断して治療を始めれば、長く安定した生活を送ることも十分に可能です。

「最近元気がない」「また吐いた」「何となくおかしい」
こんな違和感は、動物たちの体からのSOSかもしれません。

気になる変化があれば、どうぞひとりで悩まず当院へご相談ください。
小さなサインに早めに気づいてあげることが、健康と穏やかな毎日を守ることにつながります。

■関連する記事はこちらです
犬や猫の嘔吐について
愛犬・愛猫がごはんを食べないときの対処法|食欲不振の原因と受診の目安
犬と猫のホルモン検査について|体調不良の原因はホルモンかも?

 

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※記事作成当時のエビデンスに基づくもので最新のものと異なる可能性があります。