犬の腸管腫瘍とは?|下痢や血便などの症状のサインと治療法の選び方
犬ではさまざまな腸管腫瘍が発生する可能性があります。
下痢や血便といった症状が見られたとき、その原因は腸管腫瘍かもしれません。
一方こうした症状は、炎症性腸疾患などの消化器の病気だけでなく、全身のさまざまな病気で現れ、ときにはストレスなどの精神的な要素が関わることもあります。
そのため、消化器症状が続く場合は早めに動物病院を受診し、その原因を探ることが重要になります。
今回は犬の腸管腫瘍について、その種類や症状、治療法などをご紹介します。
目次
腸管腫瘍とは?
腸管腫瘍とは、消化管のうち小腸や大腸に発生する腫瘍のことを指します。これらの腫瘍には、悪性腫瘍(がん)と良性腫瘍が含まれますが、犬においては悪性腫瘍が多く見られます。以下に代表的な腸管腫瘍の種類を説明します。
<リンパ腫>
中高齢の犬に最もよく見られる腸管腫瘍です。進行が早く、近くのリンパ節に転移して全身へ広がることも少なくありません。リンパ腫は高悪性度(大細胞性)と低悪性度(小細胞性)の2つに分けられ、治療法や予後が異なってきます。
<腺癌>
腺癌は、大腸に発生することが多い腫瘍です。消化管の粘膜に発生し、早期に発見しないと周辺の組織へ浸潤し、転移することもあります。
<消化管間質腫瘍(GIST)>
この腫瘍は、盲腸にできやすいとされていますが、犬や猫では比較的まれです。消化管の壁に存在する間質細胞から発生する腫瘍で、腫瘍の成長速度や進行具合は個体差があります。
<肥満細胞腫>
肥満細胞腫は、発生はまれですが、万一発生した場合、他の臓器にも転移する可能性があるため注意が必要です。
これらの腸管腫瘍の多くは悪性(がん)ですが、良性腫瘍が発生することもあります。良性腫瘍は比較的進行が遅く、他の組織に浸潤することはありませんが、腸管を狭くして通過障害を引き起こすことがあるため、注意が必要です。
症状
腸管腫瘍が発生すると、便に異常が現れることがよくあります。代表的な症状として、以下のような便の変化が見られます。
・下痢
・血便(便に血が混ざる)
・粘液便(便が粘液に覆われた状態)
・便が細くなる
しかし、腸管腫瘍の症状は便の異常だけに限りません。進行すると、以下のような全身症状が出ることも多く、見逃されやすい場合があります。
・嘔吐
・食欲不振
・体重減少
これらの症状は他の病気でも見られることがあり、便だけの状態からでは腸管腫瘍かどうかの判断が難しいため、総合的な観察が重要です。
原因
腸管腫瘍の明確な原因は、現在のところはっきりと解明されていません。しかし、いくつかの要因が腫瘍の発生に関与していると考えられています。
以下は、腸管腫瘍のリスクに関連する可能性があるとされる要因です。
・加齢:高齢の犬では、細胞の代謝が衰えることで異常な細胞増殖が起こりやすくなり、腫瘍が発生するリスクが高まります。
・慢性的な炎症:長期間の腸の炎症(慢性腸炎)や消化器トラブルが、腫瘍の発生につながることも考えられています。
診断
下痢や血便などの症状は、腸管腫瘍だけでなく、さまざまな病気やトラブルで見られるため、正確な診断には総合的な検査が必要です。
腸管腫瘍の診断では、次のような検査を組み合わせて状態を確認します。
1.血液検査
血液検査では貧血や炎症の有無、内臓機能の異常を調べます。また、腫瘍マーカーが異常値を示す場合もありますが、これだけでは確定診断に至らないため、他の検査と組み合わせて評価します。
2.エコー検査(超音波検査)
エコー検査は、腫瘍の有無や大きさ、周辺のリンパ節の腫れなどを確認するのに役立ちます。リアルタイムで内臓の状態を観察できるため、侵襲が少ない検査としてよく用いられます。
3.レントゲン検査
レントゲン検査では、腫瘍による腸の閉塞や拡張、他の臓器への転移がないかを確認します。
4.内視鏡検査
内視鏡を用いて腸の内側を直接観察します。腫瘍が疑われる部分を一部採取(生検)し、組織を調べることで、より正確な診断が可能になります。
5.組織検査(病理検査)
病変から採取した組織の病理検査により、腫瘍が良性か悪性か、どのような種類の腫瘍かを判断します。
特に、腸管リンパ腫の場合は、他の病気との区別が難しいことがあります。たとえば、炎症性腸疾患(IBD)や免疫抑制剤反応性腸症は、症状や組織の状態が小細胞性リンパ腫と非常に似ているため、慎重な判断が必要です。これらの病気は内視鏡生検が診断の参考になることがあります。
治療
腸管腫瘍の治療法は腫瘍の種類や進行状況によって異なりますが、手術が基本となるケースが多いです。以下に治療の流れを詳しく説明します。
<手術(外科的切除)>
腫瘍が確認された場合、まず腸の一部を切除する手術が検討されます。手術は、全身麻酔下で開腹し、腫瘍が発生している部分を慎重に見つけ出します。
術前に組織検査ができなかった場合は、切除した腫瘍を病理検査に回し、その結果に基づいて術後の治療方針を決定します。
<術後の化学療法(抗がん剤治療)>
術後、再発や転移のリスクを減らすために補助療法として化学療法を行う場合があります。
リンパ腫の場合、特に化学療法が効果を示しやすいとされています。手術で腫瘍を取り除いた後でも、全身に広がるリスクがあるため、抗がん剤治療を続けることが重要です。
従来の抗がん剤に加えて、最近ではイマチニブ、トセラニブなど「分子標的薬」と呼ばれる新しいタイプの薬剤が使用されることもあります。分子標的薬はがん細胞特有の分子を標的とし、正常細胞への影響を抑えながらがん細胞の増殖を抑制します。
このため、分子標的薬は従来の抗がん剤治療よりも副作用が少ないことが期待されており、特にリンパ腫や消化管間質腫瘍(GIST)といった腫瘍に対して効果が示されています。
<術後の経過観察と再発防止>
術後の治療が終わった後も、定期的な検診が欠かせません。腫瘍は再発や転移の可能性があるため、食欲や便の異常、体重の変化がないか日々観察し、少しでも異常があればすぐに動物病院を受診するようにしましょう。
腫瘍の治療は、手術とその後のフォローアップが重要なポイントになります。リンパ腫のように化学療法が効果を発揮する腫瘍もあるため、獣医師とよく相談しながら、愛犬にとって最適な治療を進めていきましょう。
予防法やご家庭での注意点
病気そのものの発症を予防することは難しいのですが、早期発見と早期治療によって愛犬への負担を減らし、病気の進行を防ぐことができます。
そのため、日頃からの観察や定期的な健康診断が大切になります。特に成犬では年1回、老犬の場合は半年に1回の健康診断が推奨されています。
健康診断では、腸管の粘膜や周囲のリンパ節に異常がないかをエコーやレントゲンで確認することが、早期発見のカギになります。
また、下痢や血便、食欲不振、嘔吐、体重減少などの異常が見られた場合は、自己判断せずに早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ
腸管腫瘍は高齢の犬でよく見られる腫瘍で、悪性度が高い場合には転移のリスクも伴います。そのため、症状に気づいたときにはすでに病気が進行していることも少なくありません。こうした事態を防ぐためには、早期発見と早期治療がとても重要です。
愛犬と少しでも長く健康に暮らすためにも、定期的な健康診断や早めの受診を心がけましょう。
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