犬の水晶体脱臼|失明のリスクがある目の病気を徹底解説
犬の目の病気と聞くと、白内障や緑内障を思い浮かべる飼い主様が多いかもしれませんが、「水晶体脱臼」という病気については、あまり耳にする機会が少ないのではないでしょうか。この病気は、水晶体(目の中にあるレンズの役割を持つ構造)が本来の位置からずれてしまうことで起こり、最悪の場合は失明につながる可能性もある深刻な病気です。
水晶体脱臼は、他の目の病気がなければ初期段階では症状が出ないことも多いため、気づきにくい場合があります。そのため、定期的な健康診断を受けることが、この病気の早期発見と早期治療につながる鍵となります。
今回は、犬の水晶体脱臼について詳しく解説し、症状や治療法、予防のポイントについてお伝えします。
目次
水晶体脱臼とは?
目の中には「水晶体」と呼ばれる透明な組織があり、カメラのレンズのような役割を果たしています。健康な状態では、水晶体は「毛様小帯(チン小帯)」という細い繊維状の組織によって支えられ、目の中で安定した位置に固定されています。
水晶体脱臼とは、この毛様小帯が何らかの理由で弱くなったり切れてしまったりすることで、水晶体が本来の位置からずれてしまう病気です。原因によって以下のように分類されます。
・原発性水晶体脱臼:遺伝や先天的な要因により発症するもの。
・続発性水晶体脱臼:他の目の病気(緑内障や炎症など)が原因で発症するもの。
さらに、水晶体のずれ方によって次の3つのタイプに分けられます。
・亜脱臼:水晶体が少しだけずれている状態。
・前方脱臼:水晶体が前方(角膜側)にずれる状態。
・後方脱臼:水晶体が後方(網膜側)にずれる状態。
症状と発見のポイント
水晶体脱臼の初期症状は、水晶体がずれる位置や、他の目の病気があるかどうかによって異なります。以下に主な症状とその影響について説明します。
<亜脱臼の場合>
水晶体が少しだけずれている状態では、痛みを感じることはほとんどありません。しかし、原因となるぶどう膜炎や外傷などがある場合には、目をこする、涙が出るといった症状が見られることがあります。亜脱臼が進行すると、緑内障を引き起こすリスクが高まります。
<後方脱臼の場合>
水晶体が後方(目の奥側)にずれると、初期段階では痛みがありません。ただし、進行すると水晶体が網膜(目の奥にある視覚を司る組織)を刺激し、網膜剥離による視力喪失につながる可能性があります。
<前方脱臼の場合>
水晶体が前方(角膜側)にずれると、角膜(目の表面)に直接ぶつかることで強い痛みを感じることがあります。この場合、まぶたがピクピク動く、目を閉じがちになるといった症状が現れます。進行すると角膜が浮腫(むくみ)を起こし、目が白く濁って見えることがあります。また、房水排出が阻害されることで眼圧上昇を起こすこともあります。
水晶体脱臼は、初期の段階では明確な症状が出ないこともあります。しかし、水晶体の位置がずれることで目の見た目に変化が現れる場合があります。目が左右非対称に見える場合や、黒目の形が変わっているように感じたら、すぐに動物病院で診察を受けましょう。
診断
水晶体脱臼の診断では、主に眼科検査を行い、目の中の状態を詳しく調べます。特に以下のような検査が重要です。
・スリットランプ検査:目の表面から水晶体の位置や状態を確認するための検査です。
・超音波検査:目の内部を詳しく調べ、水晶体がどの位置にずれているのかを把握するために使用します。
これらの検査を通じて、水晶体がずれた位置を特定し、適切な治療方針を立てることが可能になります。また、水晶体脱臼だけでなく、白内障や緑内障など他の目の病気が併存しているケースも少なくありません。そのため、これらの病気が見逃されないよう慎重に検査を進めます。
検査の具体的な流れについては、当院の以前の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください。
治療
水晶体脱臼の治療方法は、視力の状態や痛み、併発疾患の有無に応じて異なります。以下に主な治療方法をご紹介します。
<経過観察>
視力に問題がなく、痛みや併発疾患も見られない場合は、定期的な検査を行いながら経過を観察します。この方法は、症状が進行していない場合に選ばれることが多いです。
<手術>
・水晶体摘出術
視力が失われつつあっても、手術によって回復が期待できる場合には、水晶体を摘出する手術を行います。ただし、後方脱臼の場合、水晶体が目の奥に落ちてしまい手術の難易度が上がります。その際は、飼い主様と手術のリスクと治療の効果について十分に相談し、最良の方法を選択します。
・水晶体を後方に押し込む治療
前方脱臼の場合、水晶体を後方に移動させる処置を行うことがあります。この方法は比較的負担が少なくなる場合もありますが、再び前方に移動しないよう、点眼薬を継続しながら経過観察が必要です。
<視力が完全に失われている場合>
視力が完全に失われている場合は、痛みを和らげる点眼薬の使用や、重度のケースでは眼球摘出術をご提案することもあります。愛犬の状態に応じて、生活の質を最大限に考えた治療方針を立てます。
治療後の経過
水晶体を問題なく摘出でき、他に目の病気がなければ、再発することなく過ごせるケースがほとんどです。
一方、水晶体を後方に押し込む処置を行った場合には、前方への再移動を防ぐために点眼薬を継続的に使用し、定期的に検査を受けることが必要です。
予防と日常のケア
水晶体脱臼は初期には目立った症状が現れないまま、急速に進行する場合もあります。そのため、定期的な健診を受けることが非常に大切です。健診では、水晶体脱臼だけでなく、緑内障や白内障、角結膜炎など、他の目の病気を早期に発見することも期待できます。
また、日頃から愛犬や愛猫の目の様子や行動を観察し、以下のような異変が見られた場合は、早めに獣医師に相談しましょう。
<目の異常なサイン>
・目を気にする仕草(前足でこする、顔を壁にこすりつけるなど)
・涙が増えた、目が赤くなる
・目の焦点が合っていない、黒目が白く濁っている
<行動の変化>
・壁や家具にぶつかる、段差につまずく
・散歩を嫌がる、歩くスピードが遅くなる
まとめ
水晶体脱臼は、犬に多く見られる目の病気で、進行すると視力を失うリスクがあります。そのため、早期発見と早期治療が非常に重要です。
また、この病気の背景には白内障や緑内障など、他の目の病気が関係している場合もありますので、動物病院で詳しい検査を行い、原因を特定して適切な治療を行うことが大切です。
日頃から愛犬の目の様子を観察するとともに、定期健診で専門的なチェックを受けることを心がけましょう。
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