猫もフィラリア症になる?| 室内飼育でも予防が必要な理由
フィラリア症というと、「犬の病気」という印象をお持ちの飼い主様が多いかもしれません。
しかし実は、猫もフィラリアに感染することがあり、重い場合には命に関わる症状を引き起こすこともあります。
猫のフィラリア症は、犬に比べてまだあまり知られていない病気のひとつです。
そのため、気づかないうちに感染が進行してしまい、見つかったときにはすでに状態が悪化しているというケースも少なくありません。
だからこそ、正しい知識を持って、早めに予防対策をとることが大切です。
今回は、猫のフィラリア症について、犬とは異なる特徴や、日常生活の中でできる予防法を解説します。
目次
フィラリア症とは?
フィラリア症とは、「フィラリア(犬糸状虫)」と呼ばれる寄生虫に感染することで発症する病気です。
このフィラリアの幼虫は蚊の体内に潜んでおり、蚊が動物を吸血した際に血液の中に入り込むことで感染が始まります。
体内に入ったフィラリアの幼虫は、血管や組織を移動しながら成長し、やがて成虫になります。
犬糸状虫という名前のとおり、主に犬に感染することが知られていますが、実は猫に寄生して病気を引き起こすこともあります。
国内の調査では、野良猫の約0.5〜9.5%、家猫の約3.0〜5.2%でフィラリアの寄生が確認されたという報告もあります。
また、蚊が媒介する病気であるため、室内で飼育している猫でも安心とは言いきれません。
蚊は網戸のすき間や玄関の開け閉めなど、さまざまなすき間から屋内に入り込むため、完全に侵入を防ぐのは難しいのが現実です。
猫のフィラリア症の特徴
猫のフィラリア症は、犬の場合とは発症の仕方や症状が大きく異なります。
以下のような特徴があるため、見過ごされやすく、より注意が必要です。
・感染しても、成虫になる前に虫が死んでしまうことが多い
・成虫が寄生した場合でも、数は1〜2匹程度と少ない
・心臓以外の場所、例えば体腔内や脳神経などに成虫が迷い込むことがある
・初期症状が現れにくく、気づかないうちに進行し、突然死に至ることもある
主な症状としては、咳、呼吸が苦しそうになる、嘔吐、食欲の低下などが見られることがありますが、これといった症状が出ないまま突然死してしまうケースもあり、非常に注意が必要です。
また、寄生した場所によっては、発作のような神経症状が現れる場合や、腹水や胸水がたまるといった異常が起こることもあります。
こうした症状はほかの病気と見分けがつきにくいため、日頃から愛猫の様子をよく観察し、少しでも気になることがあれば早めに動物病院を受診することが大切です。
室内飼育でも感染する理由
最近では、猫を完全に室内で飼育されているご家庭も増えており、「家の中に蚊が入ってこないから、フィラリアには感染しないのでは?」と考える飼い主様もいらっしゃいます。
しかし実際には、室内飼育であってもフィラリア症に感染するリスクはゼロではありません。
例えば、外出先から帰宅する際に、飼い主様と一緒に蚊が玄関から入り込んでしまうことがあります。
また、ベランダや室内に置いた観葉植物の受け皿、建物の周囲にある花壇など、水がたまりやすい場所で蚊が繁殖していることも珍しくありません。
さらに、高層階のマンションに住んでいる場合でも油断はできません。
蚊は風に乗って高い場所まで移動することがあり、実際に高層階であっても蚊の侵入が確認されています。
このように、どれだけ室内飼育を徹底していてもフィラリアに感染する可能性は十分にあるのです。
だからこそ、飼育環境に関わらず、しっかりと予防対策を行うことがとても大切です。
診断と治療の難しさ
フィラリア症の診断は、犬の場合であれば、専用の検査キットを使って比較的簡単に行うことができますが、猫においては診断が難しいとされています。
その理由のひとつは、猫ではフィラリアが成虫になる前の段階でも症状が出ることがあるためです。成虫が寄生していたとしても、寄生数が1〜2匹程度と少なく、検査で見つけにくいのが現状です。
さらに、猫のフィラリア症は診断だけでなく、治療も非常に難しい病気です。
犬の場合は、体内のフィラリア成虫を駆除する治療が行われることがありますが、猫に同じ治療を行うと、フィラリアの死骸が血管や肺に詰まり、重い合併症を引き起こす危険性があります。
このため、猫には成虫を駆除する治療は推奨されていません。
その代わりに、猫のフィラリア症では、呼吸の苦しさや炎症などの症状を抑える対症療法が中心となります。
治療の目的は、体内にいるフィラリアが自然に寿命を迎えるまで、できるだけ症状を抑えながら体の状態を保っていくことです。
予防の重要性
猫のフィラリア症は診断や治療が難しい病気のため、予防がとても重要です。
予防方法は犬と似ていますが、猫の場合は皮膚に垂らすスポットオンタイプをおすすめしていいます。
愛猫の性格や普段の様子、ご家庭の飼育環境に応じて、使いやすいタイプを選ぶことができます。
また、フィラリアだけでなく、ノミやマダニなどの外部寄生虫の予防も一緒にできる製品や、3カ月に1回の投与で効果が持続するタイプなど、製品によって特徴が異なります。
効果の持続期間や投与の手間なども比較しながら、無理なく続けられる方法を選びましょう。
予防が必要な期間は、お住まいの地域によって多少異なりますが、少なくとも蚊が発生し始めてから1カ月後から、蚊がいなくなってから1カ月後まで必要とされています。
ただし、飲み忘れのリスクを減らしたり、他の寄生虫の感染予防を兼ねたりする目的で、年間を通して予防を行う「通年予防」を選ぶ飼い主様も増えています。
当院でも通年予防をおすすめしています。
「うちの猫にはどの予防薬が合うの?」「違いがよくわからなくて迷ってしまう」とお悩みの飼い主様は、当院の獣医師までお気軽にご相談ください。
まとめ
フィラリア症は、犬だけの病気と思われがちですが、室内で暮らす猫にも起こりうる病気です。
猫の場合は、はっきりとした症状が出ないまま進行し、突然命に関わるような状態になることもあるため、何よりも予防が大切になります。
まずは、定期的な予防薬の投与を忘れずに続けることが大切です。気になることやご不安なことがあれば獣医師にご相談ください。
さらに詳しく知りたい方は、MSDアニマルヘルスが公開している解説動画もあわせてご覧ください。
▶️ 猫のフィラリア症についての解説動画はこちら(YouTube/ブラベクトチャンネル)
■愛知県の豊田市、岡崎市、日進市、名古屋市名東区で動物病院をお探しの方はダイゴペットクリニックへお越しください!
・豊田中央医療センターの病院案内ページはこちら
・岡崎大和院の病院案内ページはこちら
・日進オハナ院の病院案内ページはこちら
・名古屋名東院の病院案内ページはこちら
※記事作成当時のエビデンスに基づくもので最新のものと異なる可能性があります。
<参考文献>
Nogami, S., & Sato, H.(1998)「Prevalence of Dirofilaria immitis in cats in Japan」*Veterinary Parasitology*, 75(3), 313–319. https://doi.org/10.1016/S0304-4017(97)00194-5 (2025年5月9日閲覧)
Atkins, C. E., DeFrancesco, T. C., Miller, M. W., Meurs, K. M., & Keene, B. W.(2000)「Heartworm infection in cats: 50 cases (1985–1997)」*Journal of the American Veterinary Medical Association*, 217(3), 355–358. https://doi.org/10.2460/javma.2000.217.355 (2025年5月9日閲覧)